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家族が認知症になったら?介護の負担や財産管理、相続の対策などを解説

家族が認知症になったら?介護の負担や財産管理、相続の対策などを解説

公開日:2024年10月10日

日本では、高齢化の進行とともに認知症の方も増えています。「自分が認知症になったら……」「家族が認知症かもしれない」と不安を抱えている方もいるのではないでしょうか?

認知症にはさまざまな症状がありますが、症状によっては日常生活が困難になり、介護が必要になることも。また、それだけではありません。「銀行口座から預金が引き出せなくなる」「相続や遺産分割で親族の意見がまとまらない」といった、財産管理に関する問題が生じる可能性もあります。この記事では「認知症とは?」という基本から、具体的な症状と対応方法、相談先までご紹介。さらに後見人を立てるといった財産管理のリスクへの対処法もご紹介します。

親が認知症かも?もしものときに備え知っておくべきこと

親が認知症かも?もしものときに備え知っておくべきこと

認知症とひと言でいっても、その原因や症状はさまざま。まずは「認知症とはどんな病気か?」「症状や対応方法は?」といった基本を知っておきましょう。

また、もしものときは家族だけで抱え込まず、相談窓口や介護サービスなどを利用することも大切です。ここでは認知症に関する相談先や、家族の介護疲れを防ぐための注意点などもご紹介します。

・そもそも認知症とは

認知症とは、記憶や判断力などの認知機能が低下して、社会生活に支障をきたす病気です。さまざまな原因で脳の神経細胞が死んだり、働きが悪くなったりすることで起こります。

認知症の代表的な症状は、もの忘れなどの「記憶障害」です。「加齢によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」には、以下のような違いがあります。

「加齢によるもの忘れ」と「認知症によるもの忘れ」の違いの例

出典:政府広報オンライン『知っておきたい認知症の基本』

  加齢によるもの忘れ 認知症によるもの忘れ
体験したこと 一部を忘れる
(例)朝ごはんのメニュー
全てを忘れている
(例)朝ごはんを食べたこと自体
もの忘れの自覚 ある ない
(初期には自覚があることが少なくない)
日常生活への支障 ない ある
症状の進行 極めて徐々にしか進行しない 進行する

認知症は、さまざまな病気が原因となって起こります。代表的な病気は『アルツハイマー型認知症』『血管性認知症』『レビー小体型認知症』『前頭側頭型認知症』です。なかでもアルツハイマー型認知症がもっとも割合が多いといわれています。

厚生労働省によると、65歳以上の高齢者における認知症患者の数は、2012年度の時点で7人に1人程度。2025年には、約5人に1人が認知症になると予測しています。

認知症の人の割合は?
認知症の人の割合は? 認知症の人の割合は?

出典:内閣府「平成29年版高齢社会白書」をもとに作成

・認知症のおもな症状

認知症の症状は、大きく分けて「中核症状」と「周辺症状」があります。
中核症状は、脳の神経細胞が壊れることで直接起こる症状です。

一方、周辺症状は、その人の性格や環境、人間関係などが絡みあって起こる二次的な症状です。認知症の症状は中核症状と周辺症状が複合したものであり、表れ方は人によって異なります。

認知症のおもな症状
認知症のおもな症状 認知症のおもな症状

参考:厚生労働省「認知症と軽度認知機能障害について」

中核症状

中核症状は少しずつ進行し、残念ながら完全に治すのは難しいといわれています。しかし薬物治療により、進行を遅らせられる可能性があります。 具体的に、中核症状にはおもに以下があります。

【中核症状とは】

家族に気になる行動が見られたら、「年だから」と放置せず、かかりつけ医などの専門家に相談しましょう。

周辺症状

周辺症状に対しては、適切なケアやリハビリテーションといった非薬物療法を優先的におこないます。具体的には、周辺症状はおもに以下があります。

【周辺症状とは】

大切なのは「その人らしさ」を尊重し、本人の視点や立場に立って理解しようとすること。具体的には、以下のような対応を心がけましょう。

・認知症の「周辺症状」に対する注意点

認知症の症状に対し、家族はどのように対応したらよいのでしょうか?認知症の症状は人によって千差万別ですが、ここではいくつかの症状について注意点をご紹介します。

不安・焦燥

できないことが増えることで、パニックになったりイライラしたりしやすくなる方もいます。不安のあまり配偶者につきまとうことも。小まめに声をかけて心に寄り添い、不安な気持ちを理解してあげることが大切です。

無気力・抑うつ

うつ状態の方にとって、がんばりすぎは禁物。「がんばれ」などの励ましの言葉はかけないようにし、物事を強要することは避けましょう。「植物に水をやる」などのムリのない役割を持ってもらうのもおすすめ。してもらったら感謝の言葉を伝えましょう。太陽の光を浴びて体内のリズムを整えることも大切です。

妄想・幻覚

妄想や幻覚は、本人にとっては「事実」です。「そんなものはない」と否定するのは避けましょう。「何が見えているのか」「どう感じているのか」といった本人の話に耳を傾けて、受け止めることが大切です。

徘徊

本人が外出したいと言うときは、できるだけ付き添って見守りましょう。常に付き添うのは難しいでしょうから、名前や住所、電話番号を書いた札を持ってもらったり、衣服に縫いつけておいたりするのもおすすめです。自治体によっては、介護保険適用で借りられるGPSもあります。

不眠

不眠や昼夜逆転などの睡眠障害が出ることもあります。「規則正しい生活を送る」「午前中に日光を浴びる」「寝室の室温やライトを調整する」などして、夜に眠れる環境を整えましょう。また、睡眠薬を使いすぎると、強い眠気や誤嚥などを引き起こす危険性があります。長期間の使用は避けた方がよいでしょう。

不潔行為

尿などを漏らして周囲を汚してしまったり、排泄物を手でもてあそんだりすることを不潔行為と呼びます。漏らすのを防ぐには「トイレに行くよう声をかける「ポータブルトイレを使用する」などが有効です。オムツをしている方には、小まめに取り替えて不快感を減らしてあげましょう。

暴言・暴力

不安や体調不良、自尊心を傷つけられたと感じたときなどに表れることがあります。感情が高ぶる原因やきっかけを見つけ、取り除くことが大切です。原因がわかったら「でも」「だって」といった否定の言葉をかけるのではなく、耳を傾けましょう。怒りが爆発しそうなときは、その場を離れ、本人の気持ちが落ち着くのを待つことも効果的です。

・家族の認知症が疑われるときにまずとるべき対応、相談先

「家族が認知症かも……」と感じたら、何をするべきでしょうか?ここでは、まずとるべき対応と、困ったときに相談できる窓口をご紹介します。

医療機関を受診する

認知症もほかの病気と同じように、早期診断・早期治療が大切です。認知症の原因によっては、治療することで完治したり、症状の進行を遅らせたりできるかもしれません。家族に気がかりな行動が見られたら、早めにかかりつけ医や健康診断などを受診しましょう。

認知症を診察できる『もの忘れ外来』を利用するのもおすすめです。『公益社団法人 認知症の人と家族の会』のサイトでは、全国のもの忘れ外来を掲載しています。また同法人では、認知症に関する電話相談も可能です。詳しくは下記サイトをご確認ください。

公益社団法人 認知症の人と家族の会

認知症に関する相談窓口を利用する

「地域包括支援センター」「認知症疾患医療センター」「在宅介護支援センター」など、病院以外にも認知症について相談できる窓口があります。

下記のサイトでは、各市町村に設置されている認知症に関する相談窓口が検索できます。お近くの相談窓口を探してみましょう。

厚生労働省 介護事業所・生活関連情報検索『介護サービス情報公表システム』

介護保険や介護サービスを利用する

家族だけで認知症の人を介護するのは、とても大変です。介護保険や介護サービスは積極的に活用しましょう。介護サービスを利用することで、家族の息抜きになるだけでなく、本人にとっても社会とつながる貴重な機会となります。

医師 田頭先生 医師 田頭先生

医師 田頭先生からのアドバイス!

親の介護で注意したい”介護疲れ”

親の介護は家族がおこなって当たり前という風潮があると思います。しかし、核家族化が進み、共働きも当たり前となってきたいま、このような慣習に捉われ、家族だけで介護しようとすると、「介護疲れ」が起こりがちです。

少子高齢化の波もあり、家族だけで介護の全てをおこなうのは難しい時代になっています。「疲れたときには休める」よう、ひとりが介護の全てを抱え込まなくて済むよう、「介護の作業を分担する」という発想を持つことが大切です。

分担者には、家族以外の社会資源に目を向けると良いでしょう。今回紹介したさまざまな相談先は社会資源のほんの一部です。あるいは同様の介護を経験している方に相談すれば、思いも寄らない分担先を紹介してもらえるかもしれません。

そして、誰かに相談すること自体が「心理的なリスクの分散作業」になります。ひとりで逃げ道のない気持ちに悩まされぬよう、ぜひ、いろいろな人や場所で相談してみてください。

親が認知症になると銀行などで口座凍結に?財産管理の問題とは?

親が認知症になると銀行などで口座凍結に?財産管理の問題とは?

親が認知症になると、介護以外にも考えなくてはいけないことがあります。それは「財産管理をどうするか?」という問題です。

認知症で判断力が低下すると、よく内容を理解できないまま契約をしてしまったり、詐欺の被害にあってしまったりといったリスクが生じます。そのため金融機関では、本人の財産を保護する目的で、預金を引き出せないように措置をとります。これを一般的に「口座凍結」と呼びます。

認知症といっても、軽度から重度までレベルはさまざま。認知症と診断されたからといって一律に口座が凍結されるわけではありません。ポイントは「本人の意思確認ができるかどうか」。詳しくは後述しますが、金融機関側に「判断能力が著しく低下している」と判断されれば、口座凍結される可能性があります。また不動産の売買も難しくなり、親名義の家を売却することも困難に。

親が認知症になったら、子どもが手続きをとって親の資産を介護費用や生活費にあてるケースもあるでしょう。その際にお金を動かせないとなると、子ども側の家計に重い負担がかかる可能性があります。そうした事態を防ぐためにも、親が認知症になったときのことを想定して、事前に財産管理について考えておくことが大切です。ここでは具体的な財産管理リスクと対処法をご紹介します。

・口座凍結されてしまうリスク

親が認知症になったからといって、必ずしも口座が凍結されるわけではありません。しかし銀行に「判断能力が著しく低下している」と判断されたら、凍結される可能性が。口座が凍結されると、本人はもちろん家族であっても預貯金の引き出しができなくなります。たとえ本人の年金が振り込まれても引き出せません。同様に、証券会社での株式・投資信託の売買などもできなくなります。

口座凍結されるきっかけとして、以下のような場面があります。

【口座凍結されるきっかけ】

など

しかし、後述する『成年後見制度』を利用すれば、預金を引き出せるようになります。戸籍抄本などで家族関係を証明し、介護施設の請求書などでお金の使いみちを示すことで、預金を引き出せる場合も。

また銀行によっては、あらかじめ『代理人サービス』に申し込んで『代理人キャッシュカード』を作成しておくことで、家族が本人に代わってATMから預金を引き出すことができる銀行もあります。同様に証券会社でも、本人に代わって取引ができる代理人サービスがあるところがあります。サービスの名称や内容などは銀行や証券会社によって異なりますので、本人に判断能力があるうちに一度相談するとよいでしょう。

・不動産の売却ができなくなるリスク

親が重度の認知症になった場合は、親名義や共同名義の不動産の売却も難しくなります。これは法律で「契約時に、本人に意思能力がなければ、その契約は無効になる」と定められているためです。重度の認知症にかかると「意思能力がない」とみなされるのです。

また子どもが代理人となって売却することも困難です。なぜなら本人に意思能力がなければ、「本人の同意を得た」と認められない可能性が高いからです。

親が介護施設へ入居する際など「家を売って、お金を工面したい」という場面が出てくるかもしれません。また親が住まなくなったことで空き家になり、手放したいというケースも考えられます。そのような場合に不動産の売却ができないのは、大きなリスクといえるでしょう。

・認知症による財産管理リスクへの対処法(口座凍結前)

財産管理リスクへの対処法は、口座凍結の前と後で異なります。それぞれ利用できる制度や保険についてご紹介します。

①成年後見制度(任意後見制度)

成年後見制度とは、認知症などで法律行為ができない方の契約や手続きをサポートする制度。そのうちのひとつが、『任意後見制度』です。あらかじめ本人が選んだ人(任意後見人)が、本人に代わって財産管理などをおこなうことができます。

利用するには、本人に判断能力があるうちに「誰に任意後見人を頼むか」「任意後見人にどのような権限を与えるか」といった内容を定め、公正証書を作成しておかなくてはいけません。その後、本人の判断能力が不十分になったら、家庭裁判所に任意後見人の選任を申し立てます。家庭裁判所に選任されたら、任意後見人が正式に権限を持つことになります。

成年後見制度には『法定後見制度』もあります。任意後見制度との違いは以下のとおりです。

成年後見制度とは?
成年後見制度とは? 成年後見制度とは?

※日常生活に関係した行為を除く

②家族信託制度

親から子など、委託者から受託者へ財産の管理を一任できる制度です。任意後見制度と違って家庭裁判所への申し立てが必要ないのが特徴です。

利用するには、認知症になる前に「どの財産を託すか」「誰に託すか」「何のために託すのか」といった信託内容を決め、公正証書で作成しておくのがおすすめです。その後、委託者の口座から受託者の信託口口座に現金を移し、契約で定めた目的に応じて利用します。

ご自身で手続きすることもできますが、専門家に委託する場合の費用は登記費用等の実費を含め、費用は、不動産を含む場合は信託財産額(固定資産税評価額+金銭)の1.5〜2%、現金のみの場合は20万〜40万円が目安です。

③生前贈与

元気で判断能力のあるうちに、預金や不動産などの財産を家族に贈与するのも有効です。しかし生前贈与の金額が基礎控除の110万円を超えた場合は、贈与税が発生します。また生前贈与から7年以内に本人が亡くなった場合、生前に贈与した分も相続税の課税対象になる可能性が。生前贈与をおこなう前に、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

④民間の介護保険

民間の生命保険には、認知症に特化した商品もあります。口座凍結した際に不安なのは、介護費用の負担。しかし、こうした保険に加入しておけば金銭的な不安も軽減されるかもしれません。保険の種類も年金タイプや一時金受け取りタイプなど、さまざま。現金で給付を受けられるので、介護費用の助けにもなるでしょう。

⑤日常生活自立支援事業

認知症などで判断能力が不十分な方に対し、地域で自立した生活が送れるようサポートする制度です。専門員や生活支援員が、福祉サービスの利用援助や、預金の入出金といった日常的な金銭管理などをサポートしてくれます。

しかし判断能力が不十分といっても、「契約の内容を理解できる能力が必要」とされているため、認知症の方でも比較的軽度な方が対象といえるでしょう。認知症の診断を受けていない方でも、実施主体に「支援が必要」と認められれば利用可能です。

利用する際は、実施主体の都道府県や指定都市社会福祉協議会と契約を結ぶ必要があります。利用料は実施主体によって異なりますが、訪問1回あたり平均1,200円。契約する前の相談や、生活保護世帯の利用料は無料です。

日常生活自立支援事業は「介護サービスに申込む」「病院代を支払う」といった日常生活の支援に限定されます。成年後見制度と違い、契約などの法律行為は対象外。不動産の処分や遺産分割協議などの援助はしてもらえませんので、ご注意ください。

⑥銀行などの資産承継制度

銀行などの金融機関に資産を預け、管理や運用などをしてもらう制度です。具体的な管理方法や運用方法は、あらかじめ金融機関と取り決めた範囲でおこなわれます。

たとえば、あらかじめ家族を指名しておくことで、家族が本人に代わって医療費や介護費用を引き出せるようになります。また本人が亡くなったあとは、複雑な相続手続きをしなくても、資金をすぐに受け取ることができるようになります。

契約内容によっては、本人による引き出しを制限することも可能。たとえば「キャッシュカードを作らず、引き出しは窓口でのみ」といった具合です。使い道がわからない引き出しに制限をかけることで、振込み詐欺への対策ができます。

制度の名称や内容は金融機関によって異なりますが、数十万円からはじめられて元本が保証されるサービスも。将来を見据えて検討してみてもよいでしょう。

・認知症による財産管理リスクへの対処法(口座凍結後)

本人の判断能力が不十分となって口座凍結されてしまったあとは、成年後見制度のひとつである『法定後見制度』を利用できます。任意後見制度では本人が後見人を選べますが、法定後見制度では、家庭裁判所が本人の判断能力に応じて『後見人』『保佐人』『補助人』を選任します。

後見人・保佐人・補助人には親族が選ばれるとは限らず、実際には弁護士・司法書士・社会福祉士といった専門家が選ばれるケースの方が多くなっています。親族以外が選ばれた場合、たとえば「子どもが親を介護施設に入所させる」といった場合でも、選ばれた専門家と話し合って決めることになります。

また選ばれた後見人には、毎月報酬を支払う必要があります。報酬額は家庭裁判所が決定し、管理する財産の内容によって異なりますが、毎月2万円~数万円程度です。

法定後見制度を利用するには家庭裁判所への申し立てが必要で、利用開始まで数ヵ月かかります。すぐに口座凍結を解消できるわけではないので注意しましょう。

FP馬場先生 FP馬場先生

FP馬場先生からのアドバイス!

親が認知症になった場合のお金のトラブルにはどんなものがある?

親が認知症になった結果、お金のトラブルが発生することは珍しくありません。たとえば、認知症が進むと以下のような症状が出ることがあります。

  • 急に金遣いが荒くなり、家計のやりくりができなくなる
  • 誰かにお金を盗られたと思い込む

認知症のために口座が凍結されたり、誰が本人の代わりに財産を管理するかで親族間でもめたりすることもあります。

また、国民生活センターによると、認知症で判断能力が十分でなくなっているのに、訪問販売や通信販売などで高額な商品を契約してしまうケースも多数報告されています。なかには、悪質な詐欺被害に遭ってしまう人も。

本人が元気なうちに対策を行っておけば、このようなトラブルを防ぎやすくなります。

親が認知症になってしまったときの相続問題・相続対策とは?

親が認知症になってしまったときの相続問題・相続対策とは?

相続が発生した際、相続人に認知症の方がいる場合は、さまざまな相続問題が発生します。たとえば「遺産分割協議に参加できない」「相続放棄ができない」などです。その際は「成年後見制度を利用する」「事前に遺言書を作成する」などの対策が必要となります。

ここでは「父親が亡くなり、子どもと認知症の母親が相続人」というケースをもとに、具体的な相続問題と相続対策をご紹介します。

・遺産分割協議をする場合に、認知症の人は参加ができない

父親が亡くなった際、銀行などの金融機関に伝わった時点で父親名義の口座は凍結されてしまいます。きっかけの多くは、家族が銀行に伝えたとき。また新聞の訃報欄で銀行側が気づくこともあります。

口座凍結が解除されるのは、遺産分割協議をしたあとです。遺産分割協議とは遺産の分け方を決める手続きで、相続人全員が合意する必要があります。しかし認知症の方は遺産分割協議に参加できない可能性が。認知症でも意思能力があれば問題ありませんが、判断能力が著しく低下し、意思能力がないとみなされると、遺産分割協議書が無効となってしまうのです。

そのため父親の遺産が銀行口座に残されていても、口座凍結されたまま引き出せなくなります。父親名義の不動産を売却することもできません。

・法定相続分で済むケースでも、手続きが煩雑になりやすい

法定相続分とは、民法で定めた相続割合のこと。「法定相続分だけなら、遺産分割協議は必要ないのでは?」と思うかもしれません。しかし預貯金については、ご自身の法定相続分のみ請求する場合でも遺産分割協議があったほうがよいでしょう。

不動産については、遺産分割協議をしなくても相続登記ができます。相続登記とは、不動産を相続したときにおこなう、不動産の名義変更です。2024年4月より、相続で取得したことを知った日から3年以内におこなうよう義務づけられています。

しかし、父親の不動産を認知症の母親が法定相続分だけ相続登記した場合、子どもと不動産を共有することになります。共有状態の不動産は、共有者全員が合意しないと売却や賃貸に出せません。

また相続には『配偶者の税額の軽減(配偶者控除)』『小規模宅地等の特例』といった、相続税を減額する特例があります。

・相続放棄ができない

父親が亡くなった際、財産などを一切受け継がない『相続放棄』を選択することもできます。しかし母親が認知症で「意思表示ができない」とみなされると、母親は相続放棄ができません。そのため、もし父親に高額な借金があったとしても、放棄できずに相続してしまい、返済義務を負うリスクがあります。また、たとえプラスの財産を相続しても、相続税を支払う手続きができずに延滞税が発生する可能性も考えられるでしょう。

プラスの財産の範囲内で負債を受け継ぐ『限定承認』という方法もあります。「借金は放棄したいけれど、形見の品は残したい」という場合に有効です。しかしこれも相続人全員でおこなう必要があるため、認知症で判断能力が著しく低下した方がいる場合は使えません。

・おもな対応策

上記の相続問題については、以下のような対応策があります。財産管理リスクへの対処法としてご紹介した『成年後見制度』『家族信託』『生前贈与』は、相続問題に対しても有効です。

①成年後見制度

成年後見制度には『任意後見制度』と『法定後見制度』があります。

任意後見制度は母親に判断能力があるうちに手続きをする必要がありますが、家族を任意後見人に指名することができます。その際「後見人に遺産分割協議をおこなってもらう」という取り決めをしておけば、遺産分割協議においても子どもが母親に代わっておこなうことができるのではないか、と考える方もいるかもしれませんが、後見人と被後見人がともに相続人となる場合は「利益相反関係ある」とみなされてしまうことから、特別代理人の選任の申立てが必要になる可能性が高いでしょう。

任意後見人がいない場合は、『法定後見制度』を利用して、家庭裁判所に後見人の選任を申し立てます。その場合は家族ではなく、弁護士や司法書士といった専門家が選ばれる可能性が高いでしょう。また手続きから開始まで、多くの場合4ヵ月以内とされています。その間は遺産分割協議ができませんので、ご注意ください。

②遺言書の作成

父親が生前に「誰に何を相続させるか」を記した遺言書を作成しておくと、遺産分割協議をせずに相続手続きをすることができます。しかし遺言書には作成ルールがあり、「作成日がない」「署名がない」といった誤りで無効となる恐れも。作成するときは専門家のチェックを受けることをおすすめします。

③家族信託

家族信託とは、信頼できる家族と契約を結び、自分の財産を管理、運用、処分してもらう制度です。

父親と子どもの間で家族信託の契約を結んでおくと、父親が亡くなったあと、契約の範囲内で財産の管理・処分などが可能です。相続の際も遺産分割協議をおこなう必要はありません。

家族信託をする場合は、「何の目的で・どの財産を・誰に託すか」「どのようなルールで管理するか」といった信託契約を結びます。そのうえで信託財産を管理するための「信託口口座」を銀行に開設します。不動産がある場合は、父親から子どもへの名義変更の登記も必要です。

これらの手続きは、全てご自身でおこなうことが可能です。しかし信託契約は公正証書にする必要があり、法的な知識が必要です。財産によっては手続きが複雑になることもあるでしょう。家族信託を利用する場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。

④生前贈与

生前贈与で相続問題を回避するのも、ひとつの方法です。しかし基礎控除の110万円を超えると、贈与税の課税対象となります。また生前贈与をしてから7年以内に父親が亡くなった場合、相続財産とみなされて相続税が発生するケースもあるので注意しましょう。

FP馬場先生 FP馬場先生

FP馬場先生からのアドバイス!

成年後見人制度はより使いやすいしくみへ

認知症になっても財産を守っていくために役立つ「成年後見制度」ですが、実は近年、制度の見直しに向けた議論が行われています。

現在の成年後見制度では、「一度開始したらやめられない」「本人の意思が過度に制限されてしまう」「状況に応じて成年後見人を変更することが難しい」などの指摘が寄せられることがあり、それらに対応する形です。

今後は、一時的な利用も可能にする、本人にとって必要な範囲だけに限定できるようにする、成年後見人の柔軟な交代を可能にするなどの変更が検討されています。多くの人にとって、より使いやすいしくみになっていきそうです。

まとめ

医師 田頭先生

認知症は少子高齢化の流れのなかで、今後、誰もが避けることのできない社会問題のひとつです。それに対応すべく政府をはじめ、自治体や医療機関、介護施設もさまざまな取り組みを通じて「認知症になっても元気で生きられる社会」を目指しています。

患者家族もこの時代の流れを理解し、けっして従来の慣習に捉われることなく、認知症にまつわる困難を社会で分かち合い、受け入れていく発想を持つといいと思います。困ったときには、ひとりではなく、相談先がたくさんあるということを、忘れないでくださいね。

FP 馬場先生

親が認知症になった場合、親の心身の健康だけでなく、お金のことが気にかかる人も多いでしょう。実際、認知症の人がよくわからないまま高額の契約を結んでしまう、認知症が原因で口座が凍結されて家族が困るといったトラブルも少なくありません。

親が長年にわたって築いてきた大切な財産を守るためには、できれば本人の判断能力があるうちに、成年後見制度や家族信託、生前贈与などの対策をおこなっておくのが理想的です。しかし、認知症になってからでもできる対策はあります。

悩んだときは、地域の社会福祉協議会や弁護士・司法書士など、専門家に相談してみましょう。

監修者情報

医師 田頭 秀悟(たがしら しゅうご)

医師 
田頭 秀悟(たがしら しゅうご)

鳥取大学医学部卒業。専門は脳神経内科。内科全般を対象とするオンライン診療専門の「たがしゅうオンラインクリニック」を経営。患者自身の病気を治す力を支援する「主体的医療」を理念に掲げている。

馬場 愛梨(ばば えり)

ファイナンシャルプランナー 
馬場 愛梨(ばば えり)

ばばえりFP事務所代表。関西学院大学商学部を卒業後、銀行の窓口業務に従事。その後、保険代理店や不動産業界などでも経験を積み、独立。自身が過去に金銭的に苦労したことから、難しいと思われて避けられがち、でも大切なお金の話を、ゆるくほぐしてお伝えするべく活動中。お金にまつわる解説記事の執筆や監修を数多く手掛けている。保有資格はAFP(日本FP協会認定)、証券外務員1種など。

ばばえりFP事務所公式サイト

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(掲載開始日:2024年10月10日)

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